リード
「人事や総務の仕事は、AIでなくなってしまうのだろうか」。採用業務の自動化や、問い合わせ対応AIのニュースを見て、一度はそう検索した人事・総務職の方も多いはずです。バックオフィスは効率化の対象になりやすいだけに、なおさら気になるテーマでしょう。
けれども、「人事・総務はなくなる/なくならない」という二択で考えると、答えは出ません。AIが置き換えるのは「人事」「総務」という職種ではなく、その中の業務(タスク)を部分的に肩代わりするからです。同じ人事でも、応募者管理や問い合わせ対応に時間を使う人と、組織や人の課題を設計している人とでは、AIの影響はまるで違います。
本記事では、人事・総務の業務を「AIへ移る業務」と「価値が上がる業務」に分解する考え方、具体的な業務リスト、これから学ぶべきこと、そして最初の30日で踏み出すステップまでを、研究データを土台に整理しました。読み終えるころには、あなたのキャリアで「何を手放し、何に投資するか」が見えているはずです。
「人事・総務はAIでなくなる?」に答える前に知るべき1つの事実

先に結論をお伝えします。AIは「人事」「総務」という職種を丸ごと奪うのではなく、その中の「業務(タスク)」を部分的に置き換えていきます。だから、職種名だけを見て安心も絶望もできません。判断の単位は、職種ではなくタスクです。
この点は、人事・総務に限らず働き方全体に当てはまります。自動化の影響を語るとき、よく引用されるのが野村総合研究所がオックスフォード大学のオズボーン准教授・フレイ博士と共同で行った試算です。日本の労働人口の約49%が、技術的には自動化が可能な職業に就いている可能性がある、と報告されました(野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」2015年)。
ただし、ここには大事な条件があります。この「49%」は「半分の人が失業する」という意味ではありません。あくまで「技術的に自動化が“可能”と推計されたタスクを多く含む職業の割合」です。技術的に可能でも、コスト・規制・人の好みなどの理由で、実際に置き換わるとは限りません。研究者自身も、これは予測ではなく試算であり、不確実性が大きいと注意を促しています。
国際的な分析でも、見方は分かれています。OECD(経済協力開発機構)は、職業まるごとではなく「タスク単位」で見ると、完全に自動化リスクが高い仕事の割合はより小さくなる、という分析を示してきました(OECD
“The Risk of Automation for Jobs in OECD Countries”
2016年ほか)。さらにIMF(国際通貨基金)は2024年の報告で、生成AIは過去の自動化と違い、定型業務だけでなく知的業務にも影響が及ぶ一方、その影響は「代替」だけでなく「補完(生産性の底上げ)」の両面があると整理しています(IMF
“Gen-AI: Artificial Intelligence and the Future of Work” 2024年)。
人事・総務の現場に引き寄せると、こうなります。応募者の一次スクリーニングのサポート、社内問い合わせへの自動回答、各種書類の作成・チェックは、すでに作業を大きく圧縮しつつあります。一方で、誰を採用するかという最終判断や、人の感情が関わる相談対応、制度そのものの設計といった業務は、引き続き人に残っています。つまり人事・総務でも、「移る業務」と「残る業務」がはっきり分かれていくのです。
この「タスクで見る」という原則は、職種を横断して効く考え方です。人事・総務以外の職種も含めた全体像は、AI時代に強い職種とスキルの全体像で整理しています。本記事は、その中の「人事・総務」を深掘りする位置づけです。
であれば、私たちがやるべきことは「なくなるかどうか」を心配することではありません。自分の業務を分解し、「AIに移す業務」と「自分の価値が上がる業務」を見極めることです。次の章で、その分解のしかたを具体的に見ていきます。
人事・総務の業務を2軸で分解する

ここでの結論はシンプルです。どんな人事・総務担当者の仕事にも、「移譲すべき業務」と「強化すべき業務」が同居しています。そして両者は、2つの軸で見分けられます。1つは「AIに代替されやすいか」、もう1つは「人がやることで付加価値が高いか」です。この2軸でタスクを4つの象限に分けると、何を手放し、何に投資すべきかが見えてきます。
進め方は、3つのステップで考えると整理しやすくなります。
- タスク分解:自分の業務を、30分単位の作業に書き出す(応募者対応、問い合わせ回答、書類作成、面談、制度検討…)
- 振り分け:各作業を「代替されやすさ ×
付加価値」の2軸でマッピングする - スキル投資:付加価値が高い業務を伸ばし、代替されやすい業務はAIや自動化に移す準備をする
下の4象限が、振り分けの地図になります。人事・総務の業務を例に当てはめました。
| 付加価値が高い | 付加価値が低い | |
|---|---|---|
| 代替されにくい | ① 最優先で磨く(組織開発・採用戦略の設計・従業員との対話・制度設計) |
③ 残るが差はつきにくい(例外的な来客・電話の一次対応) |
| 代替されやすい | ② AIと協働して質と量を上げる(求人票の草案・面接日程調整・社内向け資料作成) |
④ 早めにAIへ移す(定型問い合わせ回答・データ入力・書類フォーマット作成) |
このマップで言えば、投資すべきは①と②です。④は積極的にAIや自動化ツールへ移し、空いた時間を①②に振り向けます。③は無理に手放す必要はありませんが、ここだけに留まると、ほかの人事・総務担当者との差別化は難しくなります。
大切なのは、「人事」「総務」という大きなかたまりで考えないことです。その中には①〜④のすべてが混ざっています。だからこそ、自分の1日を作業単位で書き出すことが、最初にして最も効く一歩になります。
AIへ移りやすい人事・総務の業務 5つ

ここからは具体的に見ていきましょう。なお、経理など隣接するバックオフィス職種でどう振り分けが起きるかは、経理・財務のAI時代キャリア戦略でも整理しています。職種別の全体像は職種別キャリア戦略の記事一覧から確認できます。
AIや自動化ツールへ移りやすい人事・総務の業務には、共通点があります。手順が決まっていて、反復が多く、判断にあいまいさが少ない作業です。代表的な5つを整理しました。
| 業務 | AIへ移りやすい部分 | 人に残る部分 |
|---|---|---|
| 社内問い合わせ対応 | よくある質問への自動回答・規程の検索案内 | 個別事情のある相談・感情が絡む対応 |
| 採用の事務作業 | 求人票の草案作成・応募者への定型連絡・日程調整 | 誰を選ぶかの最終判断・候補者の見極め |
| 各種書類・資料の作成 | テンプレートに沿った文書・社内通知・議事録の下書き | 内容の妥当性確認・文脈に応じた調整 |
| 勤怠・データ集計 | 勤怠データの集計・各種一覧表の自動生成 | 異常値の解釈・現場との調整 |
| 社内手続きの受付・転記 | 申請データの転記・システム間の連携 | 例外処理の判断・トラブル時の対応 |
社内問い合わせ対応
「有給の残日数は」「経費精算の締切は」といった社内からの問い合わせは、AIチャットや社内向けの回答ツールと相性のよい業務です。規程やマニュアルを参照して答える定型的なやり取りは、自動回答に置き換えやすくなっています。
ただし、家庭の事情を踏まえた働き方の相談や、ハラスメントに関わるデリケートな相談は、人が受け止める必要があります。問い合わせ対応が「定型回答」から「個別の相談支援」へと、重心が移っていくと考えると分かりやすいでしょう。
採用の事務作業
採用業務のうち、求人票の文案づくり、応募者への定型的な連絡、面接日程の調整といった事務作業は、AIや自動化ツールが助けてくれる領域です。下書きや調整の手間は、大きく減らせます。
一方で、誰を採用するかという最終判断は人の仕事として残ります。ここには注意が必要です。応募者の選別をAIに任せきりにすると、性別・年齢・国籍などによる意図しない差別を生むおそれがあります。採用は職業安定法をはじめとする法令の対象でもあり、最終的な判断と説明責任は人が担う前提で使う必要があります。
各種書類・資料の作成
社内通知、案内文、議事録の下書きなど、テンプレートに沿った文書づくりは、生成AIが下書きを作りやすい業務です。ゼロから書く負担を減らし、たたき台を素早く用意できます。
ただし、その内容が制度や事実と合っているか、誰が読むかに応じて表現が適切かを確認するのは人の仕事です。文書を“作る”作業は移っても、内容に責任を持つ仕事は残ります。
勤怠・データ集計
勤怠データの集計や、各種の一覧表づくりは、ルールが明確なため自動化しやすい業務です。大量のデータをミスなく速く処理する点では、AIや自動化ツールが得意とします。
その一方で、長時間労働の兆候など異常値をどう読み解き、現場とどう調整するかは、文脈の理解が要るため人に残ります。集計の先にある「気づき」と「対応」が、人の役割になります。
社内手続きの受付・転記
入退社の手続きや各種申請の受付、システム間のデータ転記は、RPAやAPI連携で自動化が進んでいる代表例です。人がコピー&ペーストしていた作業は、設定さえ整えば自動で流れるようになります。
ここで残るのは、「どの手続きをどう自動化するか」を設計する仕事と、例外やトラブルが起きたときの対応です。手を動かす作業から、仕組みを管理する役割へと重心が移っていきます。
これら5業務に共通するのは、完全になくなるわけではないものの、人がゼロから手を動かす場面が着実に減っていくという点です。空いた時間をどこに使うかが、次の章で見る「価値が上がる業務」を左右します。
価値が上がる人事・総務の業務 6つ

ここでの結論です。文脈の読み取り、人との対話、判断、責任、そして設計が関わる業務は、人に残るだけでなく、AIが普及するほど価値が高まります。人事・総務でとくに伸びしろが大きい6つを整理しました。
| 業務 | なぜ価値が上がるのか |
|---|---|
| 組織開発・人材育成の設計 | 人と組織の課題を見立て、育成や配置を設計する仕事。AIは情報を出せても、組織への打ち手は人の役割 |
| 採用戦略の設計と見極め | どんな人を、なぜ採るのか。事業と結びつけた設計と、候補者の見極めは人にしかできない |
| 従業員との対話・関係構築 | 面談、相談対応、エンゲージメント向上など、信頼関係を土台にした仕事 |
| 人事制度・労務リスクの設計 | 評価制度や規程の設計、労務リスクへの目配り。自動化が進むほど制度設計の重要性が増す |
| 法令の一次把握と専門家連携 | 法改正やリスクの芽に気づき、社労士・弁護士へ的確につなぐ橋渡し役(※個別の法的判断は専門家の領域) |
| AIによる自動化の設計・監督 | どこを自動化し、出力をどう検証し責任を持つかを決める新しい役割 |
組織開発・人材育成の設計
組織開発や人材育成は、「いまこの組織に何が起きていて、どんな打ち手が要るか」を見立てる仕事です。研修の設計、配置や登用の検討、チームの関係づくりなどを通じて、人と組織のパフォーマンスを高めます。AIは過去のデータや一般論を速く出せますが、目の前の組織に合わせた打ち手の設計は人の仕事です。長く働き続けたい人事ほど、ここに投資する価値があります。
採用戦略の設計と見極め
「どんな人材を、なぜ、いつまでに採るのか」を事業と結びつけて設計する仕事は、人の判断が中心です。AIは応募者対応の事務を助けますが、自社の方向性に合う人かどうかの見極めと、採用の最終判断は人に委ねられます。前章でも触れたとおり、選別を自動化に任せきりにせず、人が判断と説明責任を持つことが欠かせません。
従業員との対話・関係構築
面談、キャリア相談、エンゲージメント向上の取り組みなど、従業員との関係づくりは、信頼を土台にした仕事です。AIに相談文の下書きは頼めても、相手の表情や言葉の背景を読み取り、安心して話せる関係をつくるのは人にしかできません。人が辞めるか残るかを左右する場面だけに、ここを担える人材の価値は下がりにくいといえます。
人事制度・労務リスクの設計
評価制度や就業規則、各種規程の設計は、自動化が進むほど重要になります。働き方が多様になり、労務のリスクが複雑になるほど、「どんな制度で、どこにチェックを入れるか」を設計する役割が際立ちます。AIに作業を任せる範囲が広がるほど、その仕組みを統制する人の役割が増します。
法令の一次把握と専門家連携
人事・総務は、法改正や労務リスクの芽に最初に気づける立場にあります。「この対応は法令上どう扱われそうか」という一次的な把握と、必要に応じて専門家へ的確につなぐ橋渡しは、価値の高い仕事です。
ただし、ここには明確な線引きがあります。個別の労務手続きの代行や法律相談は、社会保険労務士・弁護士など有資格者の領域です。AIや人事・総務担当者ができるのは、情報の整理やリスクの一次把握といった補助までです。個別の法的・労務的な判断は、必ず専門家に相談してください。「AIだけで労務判断が完結する」といった発想は避ける必要があります。
AIによる自動化の設計・監督
最後が、これからの人事・総務で価値が大きく伸びる役割です。どの業務をAIや自動化ツールに任せ、その出力をどう検証し、最終的に誰が責任を持つか——これを設計し、監督する仕事です。とくに採用や評価のように人の処遇に関わる場面では、AIの出力をうのみにせず、公平性や法令への適合を検証して整える人の存在が欠かせません。世界経済フォーラム(WEF)も、今後求められるコアスキルとして分析的思考・創造的思考・柔軟性などを継続的に挙げています(World
Economic Forum “Future of Jobs Report
2025”)。AIに任せる業務が増えるほど、それを監督する人事・総務の価値は上がっていきます。
AI時代に人事・総務が学ぶべきこと

ここでの結論です。学ぶべきは、労務知識や特定の人事システムの操作だけではありません。前の章で見た「価値が上がる業務」に効く力を、AIを使う前提で具体化することが鍵になります。よく言われる「スキルアップ」を、5つの具体的な力に落とし込みました。
| 学ぶべき力 | なぜ効くのか | 最初の一歩 |
|---|---|---|
| ① 組織・人の課題を見立てる力 | 課題を捉えて初めて打ち手が設計できる。AIは情報を出せても見立ては人 | 自部署の課題を1つ、「何が起きていて何が要るか」一文で書いてみる |
| ② AIに指示し出力を検証する力 | AIは誤りも自信満々に出す。採用・評価では公平性の確認が要る | AIの作った求人票や回答を1件、根拠と公平性の観点で確認してみる |
| ③ 業務を分解し自動化を設計・監督する力 | 切り分けて初めて「どこを自動化するか」が判断できる | 自分の業務を30分単位で書き出し、移せる作業に印をつける |
| ④ データを読み解き対話に活かす力 | 勤怠やエンゲージメントの数字を、現場の対話につなげられる | 勤怠や離職のデータを1つ、傾向を読み取ってみる |
| ⑤ 学び続ける力 | 法改正もツールも更新が速い。学びの止まった人から差がつく | 月に1回、人事システムやAIの新機能を1つ試す |
① 組織・人の課題を見立てる力
これは組織開発の核心であり、人事・総務が最も価値を発揮できる方向です。「離職が増えた」で終えず、「どの層で、なぜ起きていて、何を打つべきか」まで言語化できると、事務作業の速さでは測れない価値が生まれます。最初の一歩は、自部署の課題を1つ選び、何が起きていて何が要るかを一文で書いてみることです。
② AIに指示し、出力を検証する力
AIは、誤った内容も自信を持って提示します。人事・総務の世界では、その誤りが採用や評価の不公平につながりかねません。だからこそ、出力をうのみにせず、根拠と公平性の観点で検証する力が要ります。最終的に責任を負うのは人だからです。最初の一歩は、AIが作った求人票や問い合わせ回答を1件選び、根拠と表現の公平性を確かめてみることです。
③ 業務を分解し、自動化を設計・監督する力
業務を細かい作業に切り分けられて初めて、「どれをAIや自動化に移すか」が判断できます。逆に、業務をひとかたまりで見ていると、自動化の糸口がつかめません。これは前章の「価値が上がる業務」の中核でもあります。最初の一歩は、1日の業務を30分単位で書き出し、移せそうな作業に印をつけることです。
④ データを読み解き対話に活かす力
勤怠、離職、エンゲージメントといった数字を、ただ集計するのではなく、傾向を読み解いて現場の対話に活かす力です。表計算ソフトの基礎を押さえると、数字を根拠に施策や面談を組み立てやすくなります。難しいプログラミングは必須ではありません。最初の一歩は、手元のデータを1つ選び、傾向を読み取ってみることです。
⑤ 学び続ける力
労働関連の法令は改正が続き、人事システムやAIの機能も日々更新されます。一度覚えたやり方に固執するより、古いやり方を手放して学び直す姿勢のほうが、長く効きます。WEFも、変化への適応力や生涯学習を重要なスキルとして繰り返し挙げています(World
Economic Forum “Future of Jobs Report
2025”)。最初の一歩は、月に1回、人事システムやAIの新しい機能を1つ実際に試す習慣を作ることです。
5つの力は、どれも今日から小さく始められます。大切なのは、5つを完璧にすることではなく、自分の業務に効くものから1つ動かすことです。
最初の30日ではじめる学習ステップ

結論からお伝えします。いきなり転職活動や高額なスクールに飛び込む必要はありません。まず30日で「自分の業務でAIを1つ動かす」という小さな成功体験を作ることが、遠回りに見えて最短です。お使いの人事システムのAI機能や、無料で試せる対話型AIから始められるため、最小コストで踏み出せます。
下の表が、30日の進め方です。
| 期間 | やること | 使うもの | つまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| Day 1〜7 | 自分の業務を30分単位で書き出し、AIに移せる作業を3つ選ぶ | メモ・表計算ソフト | 完璧に書き出そうとして手が止まる。粗くてよい |
| Day 8〜21 | 選んだ作業の1つを、実際にAIで毎日試す(社内通知の下書きや問い合わせ回答案など) | 人事システムのAI機能・無料の対話型AI | 一度で完璧を求めてしまう。指示を少しずつ直すのがコツ |
| Day 22〜30 | 結果を振り返り、効果のあった使い方を業務の手順に組み込む | これまでの記録 | 試したまま定着させずに終わる。手順書に残す |
このサイクルを一度回すと、「AIは難しそう」という心理的なハードルが大きく下がります。そして、自分の業務で何が移り、何が残るかが、机上の知識ではなく実感として分かってきます。土台ができれば、組織開発や制度設計といった「価値が上がる業務」への投資も、判断しやすくなるはずです。
なお、AIの下書きや回答案には必ず人の確認が要ります。とくに採用・評価・労務に関わる処理は、AIの出力をそのまま使わず、公平性や法令への適合を確認し、判断が必要な場面では専門家に相談する前提で進めてください。また、応募者や従業員の個人情報をAIに扱わせる際は、利用目的や同意の範囲、社内ルールを確認することが欠かせません。
よくある誤解と注意点

最後に、つまずきやすい誤解を3つ整理しておきます。いずれも、冒頭でお伝えした「タスクで見る」という原則に立ち返ると、見え方が変わります。
「人事・総務はAIで全部なくなる」という誤解
「バックオフィスはもうAIに置き換わる」という発想は、実態とずれています。これまで見てきたとおり、影響は職種ではなくタスクの単位で起きます。定型回答や事務作業は移っても、組織開発・採用戦略・従業員との対話・制度設計といった業務は人に残り、むしろ価値が上がります。「人事」「総務」という言葉でひとくくりにせず、自分の業務のどこが移り、どこが伸びるかを見ることが大切です。
「AIに採用や評価を任せれば公平になる」という誤解
AIが応募者対応やデータ集計を助けてくれるのは事実ですが、採用や評価をAIに任せきりにすれば公平になる、とは限りません。AIは過去のデータを学ぶため、過去にあった偏りをそのまま引き継ぐおそれがあります。採用は職業安定法など法令の対象であり、性別・年齢・国籍による差別は許されません。また、応募者や従業員の個人情報をAIに扱わせる際は、利用目的や同意の範囲を守る必要があります。AIを「判断を肩代わりするもの」ではなく、「人が公平に判断するための補助」と位置づけると、安全に活用できます。個別の法的・労務的な判断は、社会保険労務士・弁護士など専門家に相談してください。
年齢や職歴を理由に諦めない
「自分はもう遅い」と感じる必要はありません。前章の30日ステップは、特別な経歴を前提にしていません。長年人事・総務を担ってきた方には、人や組織を見る目、社内外との関係構築力という、まさに価値が上がる業務の土台があります。そこにAIを使う力を少し足すだけで、強みは大きく伸びます。これから先のキャリアを見据えるなら、事務処理の速さを競うより、「組織と人の課題を見立て、対話で動かす力」に投資するほうが、長く効きます。
まとめ
本記事の要点を、改めて整理します。
- 人事・総務は「丸ごとなくなる」のではなく、AIが移すのは業務(タスク)。問い合わせ対応・採用事務・書類作成・データ集計・手続き転記が移りやすい
- 価値が上がるのは、組織開発・採用戦略の設計・従業員との対話・人事制度や労務リスクの設計・法令の一次把握と専門家連携・AI自動化の設計監督
- 自分の業務を「代替されやすさ ×
付加価値」の2軸で4象限に分け、手放す業務と投資する業務を見極める - 学ぶべきは労務知識や特定システムの操作だけではない。組織と人の課題を見立てる力・AIの出力を検証する力・自動化を設計監督する力など、今日から1つずつ始められる
- 採用・評価・労務には法令と公平性が関わる。AIは補助にとどめ、個別の法的・労務的な判断は社労士・弁護士など専門家に相談する
人事・総務のキャリアは、不安をあおる情報も多いものです。けれども、見るべき単位を「職種」から「タスク」に変え、自分の業務でAIを1つ動かすところから始めれば、進む方向は着実に見えてきます。まずは今日、1日の業務を30分単位で書き出すところから始めてみてください。

